柔らかい声でわたしの名前を呼ぶあの子は「ミスディオール」みたいな女の子だった。

 

ーーミスディオール。ローズとフローラルが混じり合った、甘美な香り。心地良いのに芯がある、女性であれば一度は「こうなりたい」と思い描くようなフレグランス。

 

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好奇心旺盛でいろんなコミュニティに参加し、友だちを増やしていった彼女。あの子の周りにはいつだって人がいたし、愛されていた。

 

友だちが多かったからといって、流されやすいわけでもなかった。彼女には芯があり、好きなことには思い切り飛び込み、やりたくないことにはハッキリと「NO」と示していた。

 

わたしは彼女が大好きだったし、彼女もわたしを大切にしてくれた。彼女の愛らしい顔に、女性らしい仕草に、華奢で可憐な雰囲気に憧れていた。

 

嫌味のある女性らしさと嫌味のない女性らしさがあるけれど、彼女は後者だった。どう足掻いたって追いつけないくらい美しかった。

 

そして、それほどまで美しいのにも関わらず、周りから憎まれない、性格の良さをも兼ね備えていた。「天は二物を与えず」なんて言葉はないのだと、彼女は彼女の人生で示していた。

 

そんな彼女に憧れを抱くのは男性も同じ。いや、男性の方が虜になっていたのかもしれない。

 

ある日、甘くて女の子らしい顔つきのあの子は、悪気なくわたしの好きな人の気持ちをさらっていった。

 

「告白されたんだ。でも今気になる人がいるから、こんな気持ちのまま付き合うのは悪いと思って」

 

「そっか。彼はいい人だとは思うけど、気になる人がいるなら仕方ないよね」

 

「そうだよね。やっぱり断ろうと思う」

 

彼女はどこまでも芯がある女性だった。流されて付き合うことはせず、最後は気になっていた人と結ばれていた。

 

しまい込んだわたしの好意は、流れる年月とともに小さくなり、気づいたときには消えていた。

 

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それから数年が経ったいま、好きだった彼とは再会し、彼女とは仲がいいまま。わたしはわたしで幸せを見つけたし、彼は彼の、彼女は彼女の幸せをそれぞれ掴んだ。

 

結局のところ、残るのは友情なのかもしれない

 

あの出来事はわたしにそう思わせた。あの恋がいつまで続くかわからなかったし、それはいつまでも謎のままでいいのだ。

 

道ゆく人からふわりと香ったミスディオールは、憧れのあの子と甘酸っぱい恋の匂いがした。