「好きなことを仕事にする」。幸せな響きだけど、簡単なことではありません。フリーライターとして独立した私も、その大変さをひしひしと実感しています。

 

今回お話を伺ったのは、「サイエンスエンターテイナー」として活躍している五十嵐美樹さん。好きなことを仕事にし、自分の道を切り拓いている女性のひとりです。

 

好きなことを仕事にするって実際どうなの?サイエンスエンターテイナーって何しているの?どんな夢があるの?目標に向かって歩み続ける五十嵐さんに、そんな疑問をぶつけてきました。

【プロフィール】
科学のお姉さん 五十嵐 美樹(いがらし みき) @igamiki0319

 

1992年東京都生まれ。
上智大学理工学部機能創造理工学科在学時に「ミス理系コンテスト」でグランプリを受賞。その後、自身が科学に興味を持つきっかけとなった科学実験教室やサイエンスショーを全国各地の子どもたちにむけて開催、講師を務める。
現在は東京大学大学院学際情報学環客員研究員として研究を続ける傍ら、テレビやYouTube などで子どもたちに科学の楽しさを伝えている。

科学の面白さを伝える「サイエンスエンターテイナー」という職業

ーー五十嵐さんはサイエンスエンターテイナーとして、どのような活動をしているのでしょうか?

 

全国各地の商業施設やお祭り、お寺などで、科学目的に来ていない方たちへ向けて、科学に触れてもらうきっかけを作る「サイエンスショー」を行なっています。私の場合は特技のダンスを活かしながら、サイエンスの面白さを伝えています。

 

今はコロナの影響でしばらく直接伺えていないのですが、基本的には全国を飛び回っています!

 

ーーサイエンスショーにダンスを取り入れようと思ったきっかけは?

 

科学に興味を持ってもらうためですね。

 

科学館でのサイエンスショーは、そもそも科学に興味がある子たちが集まっているので、平和に見てくれるんです。ですが、商業施設でのサイエンスショーは買い物に来ている子たちばかりなので、興味を持ってもらえる度合いがまったく違います。

 

はじめた当初は、本当に人が集まらなかったんですよ。全然立ち止まってもらえなくて。打開策として音楽をガンガン流して踊ってみたら「あの人何しているんだろう?」って興味から座ってくれるようになりました。

 

それ以来、少しでも多くの人に立ち止まってもらうために、オープニングではよく踊っています。

 

ーーちなみに、子どもたちから人気のショープログラムはありますか?

 

「ダンシングバターシェイク」ですね。

 

ーー名前を聞いただけでワクワクします(笑)。

 

生クリームをシェイクすると、タンパク質の膜が剥がれて脂肪が固まってバターができるんです。本当は5分くらい振らなければいけないんですけど、ヒップホップダンスをしながら1分半で作るというのをショーの最初にやっています。これが子どもたちから人気で、かなり盛り上がりますね。

 

ーーすごい!倍速以上!

 

おかげで腕の筋肉が発達しました!

 

ーー特技のダンスを活かしてというのが、オリジナリティ溢れていますね。

 

本当はダンスも科学も大好きで……。でも、ダンサーになるか科学者になるか、どちらか選ばなきゃいけないじゃないですか。ハローワークへ行っても、ダンスも科学も活かせる職業なんてないわけですよ(笑)。そこで「なければ自分で作ればいいんだ」って気づいて作っちゃった感じです。

 

ーー両方を活かせるっていいですよね。

 

ダンスと科学は対極にあるように見えますけど、こうやってふとした瞬間に繋がることもあるので、何事も無駄じゃないと実感しました。

 

ーーちなみに、今はサイエンスショーはお休み中ですか?

 

対面のものはお休み中ですが、オンラインで実施しています!夏休みには「オンライン自由研究イベント」を実施する予定です。

 

ーーオンライン自由研究とは……?

 

キットをお送りして、全国の子どもたちとネットを繋いでオンライン科学授業を実施する会です。自宅で取り組めるので、科学に興味がない子も今まで以上に気軽に参加できるようになるのではと期待しています!

 

虹の実験で身近に感じ、科学の道へ進もうと決意

ーーサイエンスエンターテイナーとして活躍している五十嵐さんが、科学に興味を持ったきっかけは?

 

中学生のときに虹の実験と出会ったことがきっかけです。物理や科学にむずかしいイメージを抱いていたのですが、プリズムに光を当てると虹に分かれるという実験を見て、すごく身近に感じたんです。

 

「この世のすべてのものが科学で説明できるようになるのではないか」と、科学と社会との接点に気づいたときに、自分ごと化できて一気に虜になりましたね。

 

ーー私も学生時代に五十嵐さんのような方に出会えていたら、科学や物理へのハードルが低くなっていただろうなあ……。

 

出会いって本当に大切ですよね。私も虹の実験をしてくれた先生と出会えていなかったら、今ごろ違う道に進んでいたかもしれません。今度は私が、子供たちが科学に興味を持つきっかけになれたらいいなと思って活動しています。

 

ーー小さいうちに「科学って楽しい」と思えたら、選択の幅が広がりそう!

まさにおっしゃる通りです!子どもたちに「絶対に理系に進んでほしい」とまでは思っていないんです。ただ、触れていないだけで変なイメージを持っているのはもったいないことなので、選択の幅が広がればいいなと思っています。

 

最初はエンジニア業務と並行しての活動。独立を決意したきっかけとは

ーー大学を卒業したあと、すぐに今のキャリアに進まれたのですか?

 

いえ、大学の理工学部を卒業したあと、大企業でエンジニアとして働いていました。

 

ーーエンジニアだったのですね!

実はそうなんです。月曜日から金曜日までエンジニアとして働き、平日夜に準備をし、土日にサイエンスワークショップを開催するという生活でした。最初はボランティアとして開催していましたね。

 

ーー独立のきっかけを教えてください。

 

やっぱりサイエンスワークショップがすごく楽しくて。平日夜に買い出しをして土日にワークショップを行なう生活もまったく苦ではなかったのですが、もっとサイエンスエンターテイナーの活動に時間を使いたいという気持ちがどんどん強くなったので、退職を決めました。

 

ーーご両親には反対されませんでしたか?

 

反対されると思ったので、誰にも相談せずにひとりで決めて、親にも「会社辞めたよ」って事後報告しました(笑)。

 

ーー相当びっくりされたのでは……?

 

(報告したときは)焼肉を食べていたんですけど、「驚きすぎて肉が入らないぞ」って言われましたね(笑)。

 

ーー大きな決断だったと思います。かなり覚悟がいりますよね。

 

確かに、大企業でキャリアアップしていくという道を自分から手放してしまったな……とは思いましたけど、やっぱり人生は一度きりなので。「やりたいことをやろう」と思って飛び込みました。

 

あとは、チャレンジには体力が必要なので、若いうちに挑戦したいという気持ちもありました。だって、今ならノーリスクだから!大人になるにつれて失敗をしづらくなっていくと聞きますし、今のうちに失敗しようと思ったことも大きかったです。

 

「好きなこと」を仕事にするうえでの悩み

ーー好きなことを仕事にしている中で、悩むことはありませんか?

 

女性なので「私って今後、結婚するのかな?」と考えることはあります。

 

とはいえ今はいろんなキャリアの形があるので、「何歳までにこうしなきゃダメ」というのを一旦全部諦めてからは、今の自分を認められるようになりました。

 

30歳までに結婚しないと、とかって言われますけど、今のところあまり考えないようにしています。それよりも自分のやりたいことがあるのでそっちを優先しようと。人の意見に惑わされずに生きることが大切だと思います。

 

ーー私もフリーランスなんですけど、出産適齢期って言われている時期と仕事にチャレンジする体力がある時期がまるっと被っていて悩んじゃいます。

 

確かにそれは考えますよね。

 

できれば両方取りたいけど、そこで休んだらお仕事くるのかな……とか。そういう女性独特の悩みを感じることもありますけど、今はこのまま進むしかない!と思っています。

 

子どもたちの選択の幅を広げるお手伝いをしたい。彼女が描く夢

ーー働くうえで大切にしているポリシーはありますか?

 

子どもたちが、環境や周りの文化、性別などの変えられないものに左右されず、男女関わらず「科学ってこういうものなんだ」と知れる機会を作りたいという想いはブラさずに活動しています。

 

日本は、OECD諸国の中で女性科学者数がワースト1位と言われているんですよ。そういう独特の雰囲気のせいで、本当は科学が好きだけどその道に進まなくていいやと思ってしまうのはもったいないことですよね。

 

ーーそんなに少ないんですね……。

 

私の原動力が「自分のような女性が好きな道を見つけて進んでほしい」という気持ちです。だからこそ、まずは女の子たちに科学に触れてもらうきっかけを作り、こういう人もいるよということを知ってもらいたいと思っています。

 

ーー五十嵐さんのような女性が科学の分野で活躍されているのを見たら、私もああなりたいという女の子が増えそうです。

 

サイエンスショーが終わったあとに女の子から「私もこう(五十嵐さんのように)なる」と言ってもらえたときは、号泣でした(笑)。

 

ーー最後に、五十嵐さんの夢を教えてください。

 

科学エンターテインメントが進んでいるアメリカのショッピングモールで「ダンシングバターシェイク」をする、というのはひとつの夢として考えています。

 

あとは、海外から学び、それを日本の子どもたちへ向けてどんどん実践していきたいです!アメリカも理系離れを深刻に考えていて、科学コミュニケーションに多額の予算がおりてとにかく盛んになっているので、どんどん吸収しにいきたいですね。

正直に言うと、学生のころは理系科目が大の苦手でした。実験を見るのは楽しかったけれど、テストは大嫌い。だから、文系大学に進学したのは自然な流れでした。

 

でももし、五十嵐さんのような方と小さいころに出会えていたら……。もしかしたら人生がまるごと変わっていたかもしれないと感じました。

 

好きを仕事にするのは簡単なことではないけれど、自らの手で新しい道を切り拓いている女性は眩しくてかっこいい!五十嵐さんに憧れて科学の道を志す女の子がどんどん増えていくことを願って。

 

(撮影:竹井美砂子