家族に対して100%ポジティブな感情を抱いている人は、意外と少ないかもしれない、と私は思っている。誰しも少なからずぶつかった経験や、ゴロゴロした気持ちを持った経験があるのではないか、と。

 

そんな風に考えていたときに出会ったのが、佐々木ののかさんの著書『愛と家族を探して』でした。

 

本書では、さまざまな家族の形や愛の形を、ののかさんが本人たちをインタビューした形で収録されていました。生きづらい世の中をどうにか自分の手で切り開こうと進んできた方たちのエピソードが、いつの間にか凝り固まっていた私の「家族像」をほぐしてくれたように感じます。

 

今回はそんな『愛と家族を探して』の著者である佐々木さんに、書籍を出版したきっかけや家族観を伺ってきました。

佐々木ののか

佐々木 ののか(ささき ののか) @sasakinonoka

1990年、北海道生まれ。文筆家。
「家族と性愛」を主なテーマに据え、エッセイや取材記事を執筆。映像の構成企画やアパレルの制作、映画・演劇のアフタートーク登壇など、ジャンルを越境して自由に活動している。家の前で遭遇した愛猫みいちゃんと仲良く同居中。

いろいろな生き方を知りたくてインタビューを始めた

佐々木ののか2

ーー出版おめでとうございます! まずは、ののかさんがそもそもなぜ「愛と家族」がテーマの書籍を執筆したのかについてお聞かせください。

 

元々、愛と家族をテーマにインタビューを始めようと思ったのは、会社を辞めてこれからどうやって生きていけばいいんだろうと思っていた頃でした。辞めた後にいろいろな人に出会ったり、好きな人ができたりしたことがきっかけです。

 

会社員時代は、「恋愛して結婚して子どもを産む」という一直線のルートを夢見ていてーーというか、それしかないと思ってたんです。「子どもを産む」か「バリキャリになる」の二択。私は、なんとなく結婚もしたいし子どももほしいと思っていたから、前者だと思って過ごしていました。

 

ーーそんなキャリアを考える中、会社を辞めざるをえなくなってしまったんですよね。

 

そうなんです。当時は「入社したら3年は勤め続けなきゃいけない」「3年も経たないで辞めるなんて人生終わりだ」という神話や風潮もあったので、人生終わりだと本気で思っていました

 

でも、そんなときにこそ出会いがあったり、好きな人ができたりしたことで、いろいろな生き方があるのだと思い始められるようになって。たどり着いたライターという仕事でさまざまな方の話をインタビューするようになったんです。

様々な人のストーリーを通して息苦しさが減っていった

佐々木ののか3

ーー書籍のためのインタビューを通して、さまざまな「家族」「愛」の形と触れたのではないかと思うのですが、お話を聞く中でののかさんの中で大きく変わった部分はありますか?

 

お話を伺うにつれて、自分の中でも「家族」や「愛」のかたちが不思議とクリアになっていく感覚はありました。

 

全てのインタビューに一貫して言えるのは、許容度がどんどん広くなったことですね。窮屈な押し入れに閉じこもっていたのが、段々と広い部屋で過ごせるようになった、そんな感じ。息苦しさがインタビューを通してなくなっていくようでした。

 

ーー特に影響を受けたエピソードはありましたか?

 

いくつかあります。第2章に出てくる契約結婚の話では、「(契約結婚でも)添い寝ができることが条件」という部分が特に印象に残っています。

 

たとえば、「お財布が別」という条件は契約結婚の条件としてイメージしやすいものですが、「添い寝」はかなりパーソナルな条件ですよね。でも、彼女にとって添い寝は条件にするくらい個人的に一番大事にしていること。それを聞いたときに、「自分の大切なものは自分で決めていいんだ」と、当時の私は衝撃を受けて解放された気持ちになりました。

 

一緒に住んでいて、ゆくゆくは一緒に子育てして「家族」になるのもいいねと話していた女性2人が登場する第6章では、「結婚を意識しなくなって恋愛が自由にできる」というお話が面白いなと思いました。

 

私も、好きな人ができるとすぐ、結婚する気もないのに「この人は結婚向きかな」と邪心で考えてしまうことがあって。でも、最初から好きな人と生活しないと決めていたら、変な言い方ですけど、結婚向きでない人とでも安心して楽しく付き合えると思って(笑)。

 

ーー好きだけど、一緒に生活するにはどうなんだろう……っていう人はいますもんね(笑)。

 

そうなんですよ。しかも私、そういう人ばかり好きになるんです(笑)。なので、無理して好きになる相手を変えずにいてもいいんだと思えたのは、彼女たちの話を聞けてよかったなと思う部分でした。

 

あとは、第7章で描いた、結婚や離婚を何度も繰り返していた方の話を聞いて「軽やかだな」と衝撃を受けましたね。

 

ーー私もそのエピソードはかなり衝撃でした。

 

それまで私は、結婚や離婚をすごく大ごとだと思っていたのですが、彼女たちは、「仲が悪くなったわけではなく、合わなくなったから」という、いわゆるお付き合いレベルで結婚・離婚をしていて。タイミングに合わせて軽やかに婚姻関係を解消するという考え方もあるんだなと思いました。

 

ーー年下の旦那さんも「彼女が離婚するって言うなら全然いいよ」みたいな感覚で驚きました。

 

そうですよね。しかも、旦那さんのほかにパートナーがいることについて、下のお子さんが「不倫じゃないの?」と聞いて、それに対して上のお子さんが「あおくん(旦那さん)がいいって言ってるからいいんだよ」と言ったという話も、なんてアバンギャルドでカッコいいんだと思いました。

 

ーーお子さんの価値観も変わっていきそうですよね。

 

いい意味で「どんな大人になるんだろう」ってね。

 

そして、第8章に出てきた“猫と植物しか愛せない彼”のお話は、私が個人的にとても救われたという点で印象に残っています。その時期、すごく孤独を味わっていて、人が本当に孤独に傾いていったらどうなるんだろうと先行きが見えなかったので、ひとつの未来を提示していただいたという意味で救われた覚えがあります。

 

ーー結婚にしても、仕事にしても、レールに乗ったほうが世の中楽なことが多いじゃないですか。一方で、書籍に出てくる方たちには皆さんそれぞれ、普通を疑い、自分の人生を探しているような強さを感じました。ののかさんは取材対象者の方にお話を伺ってどう感じましたか?

 

お話を伺った方たちは葛藤を抱きつつも”強かった”と思いますね。でも、そのぐらい揺るぎない決意がないと、結婚をはじめとした既存の価値観からは距離が置けないんだと思います。

 

書籍を読んでくださった方からの感想の中には「こんな風になれないから落ち込む」という声もあって。でも、本に登場してくださった方を真似しようというよりは、選択肢としてこういう生き方もあるんだと思ってもらえたら嬉しいです。

「家族=ライフヒストリーを知っている人」が今一番しっくりくる

佐々木ののか4

ーーインタビューを通して視野が広がったとのことでしたが、プライベートでは、ののかさんの中で家族や愛についての考え方を大きく変えた出来事はあったのでしょうか?

 

結婚と離婚を経験したことは、自分の中で大きかったですね。あとは、書籍の中でも書いたのですが、一番好きだった人が結婚していたことを隠して私に会い続けていたのも大きな出来事でした。

 

結婚にまつわる辛いことが重なっていくことで、「結婚」がより崇高で手の届かないものになってしまったと最近感じています。

 

恋人に関しても同じことが言えて、出会ってすぐに同棲して、それからほどなく結婚した元夫をノーカウントとすると、6年くらい恋人がいないんですよ。途中、遊んでいる男の子はいても、正式なお付き合いではなかったので。

 

不妊治療をされている方で「子どもはそんなにほしくなかったけど、妊娠できないと言われた瞬間に子どもがほしくなった」とおっしゃられた方がいたのですが、恋人や結婚も、手が届かないとどんどんほしくなってくるという感覚がある。それでずっと苦しかったっていうのはありますね。最近は少しずつ薄れてきましたけど。

 

ーーさまざまな経験を経て、今のののかさんが考える「家族」とはどのようなものなのでしょう?

 

『家族はなぜ介護してしまうのか 認知症の社会学』という本を読んだ私の解釈なのですが、「家族とは、ライフヒストリーを知っている人」を指していると思います。

 

例えば、お母さんが認知症になって、大根の話をすごく覚えていると。どうしてお母さんが大根の話をするのか、施設の方はわからないじゃないですか。介護に直接関わっていなかったとしても、「どうして大根なのか」を知っているのは、一緒に過ごしてきた“家族”なわけです。

 

ということは、友だちなどの戸籍上関係がない人でも、ずっと仲良くしてきた人であれば家族と呼べるのではないか、という一つの答えに行き着いて

 

この本を改めて読んでから、「家族=ライフヒストリーを知っている人」という考え方が一番しっくりきています。

 

ーー確かに、離れて暮らす親族よりも、長く一緒の時間を過ごした人の方が家族なのかもしれないですよね。

 

結婚して一緒に過ごす時間が増えると、新しく組織した家族が「家族」になっていく感覚があるじゃないですか。それも、歴史を積み上げて時間を共有しているからなんだろうなと思います。

 

これからはケアの領域にも活動を広げていきたい

佐々木ののか5

ーーののかさん自身は、これから先子どもを産んだり育てたりすることについてどう考えていますか?

 

インタビューを始めた当初は、好きな人の子どもが産みたいという気持ちが大きかったのですが、正直、子どもがすごく苦手で。なので、今すぐ子どもを育てたいという気持ちはないですね。

 

ーー実は、私も苦手なんです……。どう接していいかわからなくて。

 

わあ、一緒ですね! 私もどう接していいかわからないんです。あとは、今回取材させてもらった方の状況を聞いて、改めて「無理かも」と思ってしまったという理由もあるんですよね。

 

ーー取材した方はどんな状況だったんですか?

 

以前、お話を伺った、子育てをしながらアーティストとして活動されている方から、「集中してグッと自分の世界に入り込みたいときに『ねえ、ママ』と話しかけられると、どうしても自分のペースを乱されてしまう」という話を聞いて、私には無理だと思いました。

 

子どもがほしいという気持ちは今は全くないですが、もし子育てをするなら、第4章で話を伺った「沈没家族」のような形だといいかもしれないですね。

 

ーーちなみに、周りに子どもが苦手なことは伝えにくくないですか?

 

言いにくいですよね。でも、無理をしたくないので伝えるようにしています。

 

もちろん伝えづらい環境はあると思うのですが、「苦手だ」と言ったうえでどうするかを工夫していけばいいのではないかと思っていて

 

私は、電車で泣いている子を見ると、泣き止んでほしすぎて自分からあやしに行ってます(笑)。でも、こういう関わり方もアリだと思うんです。苦手なことは仕方ない。どうやって自分にとって居心地のいい環境にしていくかは、関わり方次第だと思います。

 

ーーその先の付き合い方を考えているんですね。

 

子どもが苦手でも、もちろん「いないほうがいい」とは思わないので、共生していく方法を考えていきたいですね。

 

佐々木ののか6

ーー書籍の中で、この先はケア領域にも活動を広げていきたいと書かれていましたよね。何かきっかけはあったのでしょうか?

 

この社会は、健康で強い人間をスタンダードにして作られている」と強く感じたことがきっかけです。

 

この1年くらい病気をしていたのですが、自分がケアをおざなりにしてきたことはもちろん、社会に参画させてもらえていない疎外感を感じたんです。なので、社会としてケア領域をやっていかないと、「みんな健康でいなければいけない」というプレッシャーを感じる辛い世の中になってしまうと思って。

 

ただ、さっきお伝えしたように、私には「子どもが苦手」といった暴力的な側面もあるので、そういう人間がケアをしようと思ったとき、もしかしたら間違ってひどい言葉を言ってしまうかもしれないという危機感も持っています。

 

なので、その点も併せてしっかり考えていきたいです。具体的にはこれからですね。

 

ーー個人的には、家族に対してポジティブな気持ちしか抱いていない人って、実はものすごく少ないと思うんです。最後に、家族という形が多様化している中で、これからを生きる女性にメッセージがあればお聞きしたいです。

 

本を読んでくださった方から「なんとなく家族に対してモヤモヤしていて、こんなことでモヤモヤと言っていいのかと悩んでいたけど、そう感じていいんだと思えた」とメッセージをいただいたことがあって。可視化や言語化ができていないだけで、みんなちょっとずつゴロゴロした気持ちを抱えているのかもしれないですよね

 

結婚や家族を想像すると憂鬱な気分になるかもしれないですけど、結局、人とどう繋がるか、どう関わるかというところだと思うので、無理して決められた家族の形を作る必要はないと思います。

 

自分が一番辛くない形を探っていくことは、とても面倒だけど楽しい作業。「結婚」や「家族」という言葉が強すぎるので、言葉にとらわれず、居心地のいい環境を作れたらいいのではないかと思います。

 

佐々木ののか7

 

レールに乗った方が生きやすいこの世の中で、茨の道を進むことはそう簡単ではありません。書籍の中では収まりきらない大変さや葛藤があったのだろうと、書籍を読みながらいろいろなことを考えました。

 

そして、ののかさんの思いに触れることで、「家族」「愛」についてじっくり考えるきっかけをもらいました。

 

柔軟だと思っていたつもりなのに、意外にも凝り固まっていた自分の偏見や思い込みに驚き、読み進めるごとにそれが柔らかくなっていくのを感じました。書籍のおかげで、家族という枠に収まらなくても生きていく方法はあるんだ、と改めて気付かされた気がします。私のように、家族や愛情に対する視野が広がる人が一人でも増えますように。

 

(撮影:竹井 美砂子)